筑豊経済新聞は、筑豊で輝く「人」の魅力を発信し、地域への関心を高め、若い世代が「この街で何かをしたい」と考えるきっかけとなることを目指しています。本特集「筑豊を熱くする100人」は、その思いを形にする第一歩です。
記念すべき1人目は、直方でスペシャルティコーヒーを提供し、2025年1月で30周年を迎えた「このみ珈琲(コーヒー)」店主の許斐善隆(このみよしたか)さんに話を聞きました。
ーコーヒー店を始めたきっかけを教えてください。
大学生のときからコーヒーが好きで、大学の先輩が行っていた学校近くで自家焙煎(ばいせん)しているコーヒー店に連れて行ってもらったことがきっかけでした。その時飲んだコーヒーがおいしくて、今まで飲んできたコーヒーとは全然違うと感じました。その時、会社勤めもいいけど、将来はこんな風に生計を立てていくのも良いな、と思ったことがきっかけでした。
大学卒業後は、東京の会社に就職しましたが、生活スタイルや会社生活に慣れず、約1年半で辞めて、地元に戻ってきました。知り合いから紹介されたコーヒー店のフランチャイズの話を聞き、1995(平成7)年に加盟し、5年間、そのフランチャイズのコーヒー店を営んでいました。
ー独立を決断した理由を教えてください。
コーヒー業界の中で、当時はまだ珍しかった「スペシャルティコーヒー」を扱う動きが見え始めて、私も数少ないそれを扱う東京のコーヒー店を探し、実際に飲みに行って調べてみました。そしたら、とてもおいしくて、ほかのコーヒーとは違う味がしました。これから先は、このような特別なコーヒーが来るはずだと思い、フランチャイズ店の本部にスペシャルティコーヒーを取り扱う提案をしてみましたが受け入れられず、それだったら自分でやってみようと、2000年11月に独立を決断しました。
ースペシャルティコーヒーの焙煎はどのように習得しましたか?
自分の足でスペシャルティコーヒーを扱っているコーヒー店を回る中で、一番おいしいと思ったコーヒー店のオーナーに基本を教えてもらいました。その後は、自分で何回も、何回も焙煎して、おいしいものを追求していきました。
ー店を経営していて、うれしい瞬間はどんな時ですか?
やはり、お客さまに「おいしい」と言われたときが一番うれしいです。「この前のコーヒー豆、おいしかったよ」という一言を聞いたときに、一番やりがいを感じます。
ー店内の特徴について教えてください。
店内は約66平方メートルで、11席(カウンター4席、テーブル7席)あります。今まで何度かリニューアルもしていますが、最後にしたのは5年前で、その時にロゴと店のイメージカラーを紺色にしました。壁の一面を紺色にしたことで、落ち着いた雰囲気にしています。
ー最後に、店を経営していく上で大事にしていることを教えてください。
「継続は力なり」という考え方を大事にしています。同じことを毎日していると飽きてくる人も多いかもしれませんが、誠実に同じことを毎日繰り返すこと、毎日コツコツやることが大事だと思います。この店も、新しいことへの挑戦というよりも、まずは継続していくことが第一だと思っています。ネット通販もしていますが、やはり当店は地域密着の店だと思います。当店のコーヒーを気に入っていただき、リピートしてくださる方がいる。地元の方に支えられているから継続できると思います。
取材中に来店した常連の米倉洋子さんにも、「このみ珈琲」との出合いについて聞きました。
「17年前から月1回ほど来店しています。きっかけは、近くの病院に母が入院したことでした。コーヒー好きだった母のために、この店でコーヒーをテイクアウトしたことがきっかけです。母もすごく気に入って、そこから母のお見舞いに来るときは利用していました。今では母も亡くなりましたが、落ち着くこの空間が好きで継続して利用しています。冬はウインナコーヒー、夏はアイスコーヒーを頂くか、コーヒーゼリーとそれに合うコーヒーをいれてもらっています」
~編集後記~
店や事務所が閉店・閉鎖し、シャッターを下ろした状態が目立つ直方の古町商店街。そんなシャッター街の中、ひっそりと営業を継続し続ける「このみ珈琲」。30年にわたり「このみ珈琲」を営んできた許斐さん。長年にわたり店を続けられている背景には、コーヒーへのこだわりとお客さまを大切に思う気持ちがあると感じられました。これからも地域に根差した店として、多くの方々に愛されていくことでしょう。